
なぜかいつもだるい、集中力が続かない、漠然とした不安がある──。現代社会を生きる私たちは、こうした原因不明の体調不良に悩まされることが少なくありません。個人の努力不足だと感じてしまうかもしれませんが、実はこれは人類の進化と現代の生活環境との間に生じた「ミスマッチ」が原因です。鈴木祐さんの著書「最高の体調」では、このミスマッチによって引き起こされる不調を「文明病」と呼び、その根本原因と具体的な対策を提示しています。
人類は250万年もの間、狩猟採集生活を送ってきました。私たちの体はこの環境に最適化されていますが、産業革命以降のわずか250年で生活環境は激変しました。高層ビル、テクノロジーの進化、加工食品に囲まれた現代の生活は、私たちの体に大きな負担をかけているのです。
文明病を引き起こす二大要因:炎症と漠然とした不安
「最高の体調」では、文明病の主要な原因を次の二つに集約しています。
- 体内の炎症 炎症とは、細胞レベルで発生する「火事」のような状態です。これが慢性化すると、うつ病、肥満、糖尿病など、様々な体調不良や病気の引き金となります。現代の食生活やライフスタイルが、この炎症を無意識のうちに引き起こしている可能性が高いのです。
- 漠然とした不安 現代人が抱える不安は、食料不足や外敵の襲撃といった古代の具体的な脅威とは異なります。将来への漠然とした心配や、SNSなどで常に他人と比較してしまうことによるストレスなど、具体的な対象を持たない不安が私たちを蝕みます。この種の不安は脳を常に興奮状態に保ち、記憶力や判断力の低下、さらには身体の早期老化にも繋がりかねません。
文明病を克服し「最高の体調」を手に入れる実践的なアプローチ
では、この文明病にどう対処し、真に「最高の体調」を取り戻すことができるのでしょうか。「最高の体調」では、人類の進化に適した生活習慣を現代に取り入れることを提案しています。
1. 腸内環境を徹底的に整える
腸は「第二の脳」とも呼ばれ、全身の健康に深く関わっています。腸内環境を良好に保つことは、文明病対策の土台であり、特に炎症を抑える上で非常に重要です。
- 多様な発酵食品を摂る: ヨーグルトだけでなく、納豆、味噌、キムチなど、様々な種類の菌を含む発酵食品を積極的に食事に取り入れましょう。
- 食物繊維を豊富に摂る: 腸内細菌の餌となる食物繊維は、死亡率や炎症性疾患のリスクを減らす効果が期待できます。特に水溶性食物繊維が豊富なごぼう、きのこ類、海藻、寒天、りんごなどがおすすめです。
2. 積極的に自然と触れ合う
現代社会では自然と触れる機会が減少していますが、自然は心身の回復に計り知れない効果をもたらします。神経が常に戦闘モード(交感神経優位)になりがちな現代において、自然との接触は強制的にリラックスモード(副交感神経優位)に切り替えるスイッチとなります。
- 屋外での活動を増やす: 毎日公園を散歩する、日光を浴びるなど、意識的に自然の中で過ごす時間を作りましょう。
- 身近に自然を取り入れる: 家に観葉植物を置いたり、スマートフォンの壁紙を自然の風景にしたり、川のせせらぎや鳥のさえずりの音を聞くことでも、リラックス効果が得られます。
3. 質の良い睡眠を確保する
睡眠は、心身の回復と体内の炎症を抑えるために不可欠です。不適切な睡眠は体内の炎症を増加させ、文明病を悪化させます。
- 睡眠環境を最適化する: 寝室は暗く静かに保ち、ベッドは睡眠以外の目的で使用しないようにしましょう。
- メラトニン分泌を促す生活: 日中に太陽光を浴び、夜は室内の照明を暗くすることで、自然な眠りを誘うホルモンであるメラトニンの分泌を促すことができます。
4. 良好な人間関係を構築する
孤独は健康に悪影響を及ぼし、寿命を縮める可能性さえあります。「最高の体調」では、良好な人間関係はダイエットや禁煙よりも健康効果が高いとされています。
- 人との繋がりを大切にする: 家族や友人との交流を深め、社会的な繋がりを意識的に維持しましょう。
5. 心の平穏を取り戻すためのマインドセット
漠然とした不安から解放され、心の平穏を保つための具体的な方法が紹介されています。
- マインドフルネスの実践: 「今、ここに集中する」マインドフルネスは、脳の疲労を軽減し、集中力や記憶力を向上させ、メンタルを安定させる効果があります。毎日数分でも瞑想を日常に取り入れることが推奨されます。
- 価値観を明確にする: 自分の人生において本当に重要なものは何かを明確にすることで、将来への漠然とした不安が軽減され、今に集中できるようになります。
- 畏敬の念を抱く: 大自然の雄大さや芸術作品、偉大な人物の功績に触れることで生まれる「畏敬の念」は、ストレスや不安を軽減する効果があることが分かっています。
6. デジタルとの健全な付き合い方
スマートフォンなどのデジタルデバイスは、脳に強い刺激を与え、ストレスを溜め、常に興奮状態に保つ可能性があります。これは睡眠の質の低下や不安の増大に繋がります。
- デジタル断食を取り入れる: 寝る前のスマホ使用を控える、特定の時間帯はデジタルデバイスから離れるなど、意識的にデジタルデバイスとの距離を適切に保つことが有効です。
7. 仕事のルール化とストレス管理
現代人の抱える仕事におけるストレスや、やるべきことの多さも文明病の一因となり得ます。
- 「3のルール」を実践する: 毎日、毎週、毎月、それぞれ達成したい目標を3つ設定し、それに集中して実践することで、幸福度を高め、やるべきことが明確になることで不安やストレスが軽減されます。
まとめ
鈴木祐さんの「最高の体調」は、現代社会がもたらす体調不良の原因を「文明病」と定義し、進化医学の視点から具体的な解決策を提示しています。腸内環境の改善、自然との触れ合い、質の良い睡眠、良好な人間関係、心の平穏を保つアプローチ、デジタルとの適切な距離、そして仕事のルール化とストレス管理。これらの実践は、人類が長年培ってきた身体の仕組みに立ち返り、現代社会で真に「最高の体調」を手に入れるための道標となるでしょう。
今日からできる小さな一歩から、ご自身の体と心を大切にする生活を始めてみませんか。
ちなみに気軽に読める漫画版もあります。
個人的にはこちらの方が要点がまとまって分かりやすいなと思いました。

